ナフサ不足でEC運営コストはどう変わる?
梱包・物流・仕入れへの影響
こんにちは、ツバサです。
2026年春、ホルムズ海峡の封鎖をきっかけに「ナフサ不足」が連日ニュースになっている。住宅建材や日用品への影響はよく報じられているけれど、EC事業の運営コストにどう響くのかを整理した記事は少ない。梱包資材・物流・仕入れ原価の3つの軸で、EC担当者が知っておくべき影響と対策をまとめた。
ナフサ不足とは何か|EC事業者が知っておくべき背景
2026年2月末、中東情勢の急変でホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥った。日本が輸入するナフサの約74%は中東産に依存しており(石油化学工業協会、2024年データ)、この封鎖によって供給が一気に逼迫した。ナフサのスポット価格はわずか2週間で1トンあたり600ドル台後半から1,100ドル前後へ跳ね上がっている(化学工業日報、2026年3月18日)。
ナフサは原油を精製する過程で得られる石油化学製品の基礎原料で、プラスチック・合成繊維・合成ゴム・塗料・接着剤など、現代の工業製品の大半がここから始まる。ガソリンや灯油と同じ精製工程で生まれるが、燃料ではなく「モノを作るための原料」として使われる点がまったく異なる。
EC事業者にとって重要なのは、ナフサが自分たちの仕事のあらゆる場面に関わっているという事実だ。商品を包むOPPテープ、緩衝材のプチプチ、ストレッチフィルム。アパレル商材の主力素材であるポリエステル繊維。商品を届けるトラックの軽油。全部、原油とナフサの価格に連動している。
国内のエチレン生産プラント12基のうち6基が減産体制に入り、フル稼働を維持できているのはわずか3基という異常事態が続いている(LOGISTICS TODAY、2026年4月5日)。そして日本のナフサ民間在庫はわずか約20日分。原油は230日分の国家備蓄があるのに、化学原料であるナフサは備蓄制度の対象外だ。この構造的な脆さが、今回の危機で一気に表面化した。
L エチレン設備、追加停止回避もナフサ価格は2倍|LOGISTICS TODAY www.logi-today.comナフサ不足の記事は住宅建材や日用品の切り口で多く出ているが、EC事業の運営コストに焦点を当てたものは少ない。この記事では「梱包資材」「物流」「仕入れ原価」の3つの軸で、EC担当者が把握しておくべき影響と対策を整理する。
EC物流のコスト上昇は「配送料」だけではない
ナフサ不足と物流コストの話になると、「宅配便の送料が上がる」という最終区間(倉庫→購入者)の話だけが取り上げられがちだ。しかしECのサプライチェーンにはもっと手前に複数の物流区間がある。
原材料から工場まで
海外で生産しているアパレルEC事業者にとって、原材料や製品の国際輸送コストはすでに深刻な水準に達している。佐川急便の中国・広東省(深セン)発の燃油サーチャージ率は、2026年1月の28.45%から4月には38.50%へ引き上げられた(保利佐川、2026年3月27日)。DHL・FedEx・UPSなど主要国際物流会社でも、2026年3月末時点で燃油サーチャージが46%超に急騰しているとの報告がある。
佐 2026年4月の燃油サーチャージ|保利佐川 www.sagawa.cn仕入原価に乗る輸送費がここまで上がると、海外生産のコストメリットそのものが揺らぐ。東レが4月出荷分からナイロン+100円/kg、ポリエステル+50円/kgの緊急値上げを発表したが(日本経済新聞、2026年3月31日)、この値上げ幅には原材料高だけでなく輸送コスト増も含まれている。
日 東レ、繊維や不織布で値上げ ホルムズ封鎖受け原料高騰|日本経済新聞 www.nikkei.comささげ工程への商品移動
撮影・採寸・原稿作成(ささげ)のために工場や倉庫からスタジオへ商品を送り、終わったら倉庫に戻す。この往復は1SKUにつきサンプル1点で済むので、1SKUあたり数万枚を販売する大手なら出荷単価に対する影響はほぼゼロだ。
問題は中小のEC事業者。1SKUあたり100枚しか売らない商品のサンプルを往復で送ると、送料2,000円がそのまま100枚に按分される。1枚あたり20円。これが50SKUあれば、ささげのための送料だけで年間10万円。軽油が1か月で28円/Lも上がった2026年3月以降は、この往復1回あたりの単価も上がっている。ささげを外注している事業者で、外注先への送料が自社負担になっている場合は特に注意が必要だ。
倉庫から購入者まで
ヤマト運輸が2026年4月30日に発表した「法人向け運賃への燃料サーチャージ導入検討」は、EC物流の価格体系が根本的に変わる可能性を示している(物流メディア、2026年5月1日)。法人部門の平均単価は4.0%増の想定で動いており(ヤマトHD決算短信、2026年4月30日)、これが変動型の料金体系に移行すれば、毎月の送料が燃料価格に連動して変動することになる。
物 ヤマトが挑む「価格革命」燃料サーチャージ導入|物流メディア butsuryu-media.comAmazon FBAも2026年4月に手数料を改定した。標準サイズの配送代行手数料を平均38円引き下げる一方、販売価格が750円を超える商品の販売手数料率を0.4%引き上げている。配送料を下げたように見せて、取引額に連動する手数料で回収する設計だ。さらに4月15日からは、保管期間12か月超の全商品に月額20円/点の長期在庫追加手数料が新設された。売れ残りのSKUを放置するコストが、目に見える形で積み上がる仕組みになった。
A 2026年FBA手数料および販売手数料の改定|Amazon Seller Central sellercentral.amazon.co.jp楽天市場の送料無料ライン(3,980円以上)は2026年5月時点で変更されていない。しかし宅配各社が法人向けに燃料サーチャージを導入すれば、固定の送料無料ラインを維持したまま変動する物流費を吸収し続けるのは厳しくなる。店舗側の利益がどこまで耐えられるか、計算し直す時期に来ている。
梱包資材の値上げと供給不安
上がっているのはいくらか
OPPテープ、気泡緩衝材(プチプチ)、ストレッチフィルム、宅配袋。EC事業で毎日使うこれらの資材は、ほぼすべてナフサ由来のポリエチレン・ポリプロピレンからできている。
メーカー出荷価格の値上げはすでに始まっている。2026年5月1日出荷分から、エフピコチューパがOPP防曇フィルムを35%以上、大倉工業がラミネート製品を30%以上値上げした。TOPPANホールディングスは包装資材の仕入れ値が2〜3割増になったとして、食品・日用品メーカーへ値上げを打診している(日本経済新聞、2026年4月15日)。積水化学は塩化ビニル管を12%以上値上げする(2026年6月1日出荷分〜)。
P 2026年5月1日値上げの建設・物流・包装資材30社一覧|プラスチックパレット株式会社 plastic-pallet.co.jp 積 塩化ビニル管・関連製品の価格改定について|積水化学工業 www.eslontimes.comOPPテープの実売価格は、Metoreeに登録されている139製品の価格データで標準品全体が前年比15〜30%程度上昇していることが確認されている(2026年3月18日時点)。
仮に月間1万件出荷している事業者が、1件あたり平均50円の梱包資材コスト(ダンボール+テープ+緩衝材)を使っていたとする。資材費が15%上がれば1件あたり57.5円。月7.5万円、年間で90万円の利益圧迫になる。梱包コストは1件あたりでは小さく見えるが、出荷件数を掛け算すると無視できない金額に膨れる。
モノが手に入らないリスク
値上がりだけが問題ではない。2026年5月1日出荷分の一斉値上げでは、価格改定と同時に受注停止・出荷統制・納期遅延・数量制限が同時に起きている。「高くなるだけでなく、必要な数量が希望納期で入らない」状況だ。
ただし、資材の種類によってリスクの度合いは異なる。OPPテープは粘着剤原料の欧州依存分が代替輸送ルートに切り替わっており、現時点では在庫枯渇のリスクは相対的に低い。一方、ストレッチフィルムやPPバンドはエチレン・プロピレンの減産の影響をより直接的に受けるため、供給の逼迫度が高い。養生テープの基材であるポリエチレンは、ストレッチフィルムやパレット材と原料が共通しており、樹脂メーカー内で「同じ原料を使う製品同士の争奪戦」が起きている。
包装資材専門の卸会社からは「普段は数日で手配できていたものが1週間以上かかるケースが出ている」「メーカーが1回あたりの発注数量に上限を設ける場合がある」という声も上がっている(モリサキ包装資材、2026年3月)。
M 梱包資材の供給不安で起きることとは?|モリサキ包装資材 morisaki-hs.com一方で、ダンボールと紙系の緩衝材は比較的安定している。ナフサ由来のプラスチック資材が手に入りにくくなる局面で、紙系クッション材(ハニカムペーパー等)への切り替えを検討するのは現実的な選択肢だ。
仕入れ原価の上昇|合成繊維もコットンも逃げ場がない
アパレルECにとって、ナフサ不足は「配送や梱包のコストが上がる」という間接的な話ではない。商品そのものの原価を直撃する。
まず構造を整理しておく。日本で販売される衣類の98.6%は輸入品で、国産品はわずか1%強だ(NIKKEI COMPASS、2026年4月調査)。衣料品の輸入先は中国が約半数を占め、ベトナム、バングラデシュが続く。原料や糸、生地についても中国やインドネシア等のアジア諸国への依存が大きい(経済産業省 製造産業局、2024年10月)。
日 化学繊維業界 市場規模・動向や企業情報|NIKKEI COMPASS www.nikkei.com 経 繊維産地におけるサプライチェーン強靱化に向けた対応について|経済産業省 www.meti.go.jpポリエステル繊維の原料はPTA(高純度テレフタル酸)とEG(エチレングリコール)で、いずれもナフサから作られる。このナフサの調達元が中東に集中している。そして繊維に加工する最大の生産拠点は中国だが、その中国でもナフサ不足の影響は出ている。ShellとCNOOC(中国海洋石油)の合弁である惠州エチレンクラッカーは3月5日からポリエチレン出荷を無期限停止し、万華化学もポリウレタン中間体のフォースマジュールを宣言した。原料の調達元(中東)、繊維の生産拠点(中国)、縫製工場(中国・ベトナム・バングラデシュ)、そして日本への輸送ルート。このサプライチェーンの入口から出口まで、すべてがナフサ不足の影響下にある。
合成繊維の異常な値上げ
東レは2026年3月31日、合成繊維全品目の緊急値上げを発表した。ナイロンが+100円/kg以上、ポリエステルが+50円/kg以上、アクリルが+110円/kg以上。東レはこの値上げを「暫定的措置」と表現しており、これは供給が安定していないことの裏返しだ。さらに東レは樹脂・炭素繊維にサーチャージ制度を導入し、従来3〜6か月かかっていた価格転嫁を1か月以内に短縮する仕組みを作った(LOGISTICS TODAY、2026年4月5日)。
クラレもポリエステル短繊維を+150円/kg値上げしている(クラレ ニュースリリース、2026年4月15日)。
K ビニロン製品およびポリエステル短繊維の価格改定について|クラレ www.kuraray.comポリエステル製のシャツ1枚を約300gとすると、クラレの値上げ幅で計算すれば原材料だけで1着あたり45円のコスト増になる。ただし繊維業界では糸→生地→縫製→輸送→卸→小売と各段階でマージンが乗るため、原材料での数十円の増加は小売価格では数百円単位の値上げ圧力として表れる。
問題はコストだけではない。エチレンプラントの減産が続く中、合成繊維の原料となるプロピレンやベンゼンの供給自体が不安定になっている。秋冬物の生地手配は夏場に集中するため、「生地が予定通りに上がらず、発売日がずれる」というリスクがすでに現実味を帯びている。
コットンに逃げても解決しない
合成繊維が高騰するなら天然繊維に切り替えればいい、と考えるのは自然だ。実際、ポリエステルの値上がりを受けてコットンへの代替需要は増えている。綿花のニューヨーク先物は2026年5月14日に87セント/ポンドを超え、約2年ぶりの高値に迫った。4月10日時点の72.84セントから約1か月で20%近い上昇だ。5月19日時点では83.30セントに戻しているが、前年同期比では26%高い水準にある。
T Cotton Price - Chart, Historical Data, News|Trading Economics tradingeconomics.comしかしコットンの供給側も楽観できない。USDAが5月に発表したWASDE報告では、2026/27年の米国コットン生産量を1,330万ベールと予測しており、前年比60万ベールの減少となった。世界全体でも生産減・在庫減・消費増の見通しで、需給は一段とタイト化する方向だ。米国では農家がコットンから大豆やトウモロコシへの転作を進めており、作付面積は増えていない。肥料原料の尿素や硫黄も中東産が多く、イラン情勢の影響で肥料コストが上昇していることもコットン価格を押し上げている。
財務省の貿易統計(繊維ニュース、2026年2月データ)を見ると、2月の純綿織物輸入が前年同月比20.6%増と急増した一方、ポリエステル綿混織物は4.7%減少している。ただしこのデータはホルムズ封鎖(2月末)前の発注分が反映されている可能性が高く、「コットン回帰」の傾向として確定するには3月以降の統計を待つ必要がある。
繊 前年比20.6%増/2月の綿織物輸入|繊維ニュース www.sen-i-news.co.jpいずれにせよ、原油高→ポリエステル高騰→コットンへの代替需要増→コットンも値上がり、という構造が発生しており、アパレルEC事業者にとっては「どちらの素材を選んでも原価が上がる」という状況に変わりはない。
EC担当者が今できること
ナフサ不足の終息時期は見えていない。2026年5月時点でホルムズ海峡の通航問題は解決しておらず、過去のオイルショックでは供給回復から価格安定まで1〜2年を要している。「待てば元に戻る」という前提で動くのは危険だ。
以下は、EC担当者がすぐに着手できる実務レベルの対策だ。
梱包資材の見直し。ナフサ由来のプラスチック資材(プチプチ、OPPテープ、ポリ袋)から、紙系の緩衝材やクラフトテープへの切り替えを検討する。すべてを一度に変える必要はないが、代替品のテストを始めておくことで、欠品リスクへの備えにもなる。段ボールサイズの1cm単位の最適化も、年間出荷件数が多い事業者ほど効果が出やすい。
ささげ工程の効率化。ささげ拠点と倉庫が離れている事業者は、サンプルの往復送料が全SKUに乗っていることを改めて計算してほしい。倉庫併設型のささげ外注先を使えば、この区間の送料がゼロになる。まとめ発送への切り替えも有効だ。ただし前述の通り、大手で1SKUあたりの販売数が多い事業者はこの区間のコスト比率が低いため、優先度は下がる。
在庫回転率の再計算。Amazon FBAの長期在庫追加手数料(12か月超で月額20円/点)が導入された今、売れ残りSKUの保管コストは以前より明確に見える形になった。死に筋SKUの早期処分やFBA在庫の圧縮は、手数料改定を機に一度やり直す価値がある。
送料設計の見直し。ヤマトが法人向けに燃料サーチャージを導入すれば、毎月の出荷コストが変動するようになる。「送料込み価格」を設定している事業者は、どの燃料価格水準まで利益を維持できるかの損益分岐点を再計算しておくべきだ。
秋冬物の発注判断を前倒しする。合成繊維の供給不安定が続くなか、秋冬物の生地手配を先送りすると、希望の素材が確保できないリスクがある。素材変更の判断(ポリエステルからコットン混紡への切り替えなど)も含めて、例年より1〜2か月早く動くことが保険になる。